Lack of Oxygen and Beyond

-Smalltalk on hypoxia biology-

Archive for the ‘Semenza’ tag

#13-01 多難な船出

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GLSの研究室ですることは決めていたので早々にplasmidの回収などの仕事を始めた。

研究室は京都の麻酔科の研究室と比較しても見劣りするような設備でかなり心配したのだが,ぼくが計画したものは分子生物学の基本的な研究だったので特に苦労もなくすぐに成果が出た。

効率よく自分のペースで実験を進めたかったので朝6時には家を出るようにした。それでも半年以上を費やしたが一年後には実験はすべて終わっていた。投稿したら何も追加実験も無しに通してくれた。

これと平行してGLSに頼まれたHIF-1aの変異体の発現アデノウイルスを作る仕事を進めた。提示された方法ではうまくいかず2ヶ月ほど棒に振った。業を煮やしてBV(Dr.Bert VogensteinはJHUではこう呼ばれていた)から分けてもらったpAdEasy法を採用してからはトントン拍子に進んで無事ウイルスが完成した

ー一式を受け取りに彼のラボを訪ねてGLS研との格差にびっくり。今の京大の基礎と臨床の研究室の構造的な格差以上の格差!! ー。

組み替えを起こす大腸菌がすでに市販されていてラッキーだっただけなのだが。

加えて、アイルランドからきていたポスドクのConnor君のyeast two-hybrid systemを使ってHIF-1aの転写活性化ドメインと結合する蛋白質を単離するというプロジェクトを手伝うことなった。ぼくには京都での経験があったからだ。

Connerは典型的なヨーロッパ的な生活習慣を守っていた。研究室には10時過ぎに現れる、お昼御飯は一時間かけてとる、午後7時は帰宅する、原則土曜日・日曜日は研究室に来ない、などである。

ーそもそもGLS lab.では当時週末に働く習慣は誰も持っていなかった。それであれだけの成果が上がっていたのだから恐れ入った。長い時間labにいるだけが能でなということが理解できた。ぼくも結局土曜日・日曜日は原則研究室に行かないことにした。土日を休んでも研究はどんどん進んでいった。理由は簡単で麻酔というか臨床活動をしなかったかららだ。7時から16時まで研究するだけで9時間。京都にいたときに較べれば一日あたりの研究時間は遥かに長いわけだ。考えるとこれは退路が断たれたような状況だ。ろくな研究があがらないのは臨床をしているからだという言い訳が通用しないという状況ー

最終目的は以下のような性質を持つ蛋白質をとることであった。

つまりHIF-1aのtransactivation domainに結合して、願わくは酸素分圧依存性にHIF-1aの転写活性の調節に関わる,という性質である。

研究の背景にはGLS labから発表されていた論文がある。

この論文で同定されていたIDに結合する蛋白質を転写活性化の文脈で単離をすることが直接の目標であった。このプロジェクトが最終的には成功した理由は、転写活性のアッセイ系が曲がりなりにも確立していたということだと思う。様々な研究も何かものをいうにはしっかりした検証系の存在が必須なのであるということを学んだ。漠然としたアイデアなど研究には全く役に立たないのだ。

実験手技上の問題点はこのアッセイの原理を知るものには明らかだった。転写活性化ドメインを含む領域をbaitに使うことによるバックグラウンドの高さである。偽陽性のクローンが多数釣れてくることが予想された。ここの条件設定に手間取り立ち上がりに時間を要した

ー時間がかかったのはもちろん実験に内在する困難だけではなくタダ単にConnor君の要因もあったー

そもそもライブラリーもお金をケチってよそのラボにもらったものを使っていたし計画には当所から暗雲が立ちこめていた訳である。

実験が開始された後も酵母のインキュベータの温度が37℃のままだったりとかしてなかなかうまくいかないということが続いて前途多難な船出でだった。

GLS; Gregg L. Semenza

JHU; Johns Hopkins University

ID;inhibitory domain

<続きます>

Written by bodyhacker

9月 1st, 2009 at 11:09 pm

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#6-hypoxia-inducible factor 1またはhighly involved factor

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#6-hypoxia-inducible factor 1またはhighly involved factor

米国ボルチモア市のJohns Hopkins 大学の小児科医Gregg L. Semenza博士は、1980年代の後半にエリスロポエチンの低酸素誘導性の発現誘導に関わる細胞内の因子の単離を決意しかなりオーソドックスな分子生物学的手法を用いて1995年にcDNAの単離に成功した。hypoxia-inducible factor 1(HIF-1; 低酸素誘導性因子 1)である。ーとにかく何でも番号をつけるのが彼の趣味である。HIF-1, FIH-1など)

semenza.jpg

Semenza氏は、小児科の医者である。少なくとも10年前にはbeeperを持っていたしレジデントが研究室で彼に怒られていた。米国の研究室には医学部志望のテクニシャンがたくさん働いている。何でMDが基礎研究をするのか理解できないと考える人もいるようである。ぼくも何で?という質問をされた。答えるかわりにあんたのボスに質問してみたら?と振ったところ本当に質問した。子供の病気の多くは子供に責任が無くそのような無垢な子供に奉仕したいという気持ちで小児科を選んだと答えていました。

少し前に会ったときには臨床やめたと話していました。お前もやめたらとも云われました。

HIF-1は転写因子である。ゲノムワイドな研究によればすくなくとも6000個以上(ヒトの遺伝子は現在では25000個程度しかないと推定されている)の遺伝子の発現がHIF-1によって支配されていることが判明している。

支配遺伝子.jpg

HIF-1はhelix-loop-helix(HLH)とPer-ARNT-SIM(PAS)ドメインを持つアルファサブユニット(HIF-1α)とベータサブユニット(HIF-1β)が疎水結合で結びつき一つの機能的な蛋白質を構成している転写因子であり、活性化したHIF-1は細胞核に移動し標的遺伝子の発現制御域(hypoxia response element; HRE, 5′-RCGTG-3′ (R=A or G))に結合し発現を促す。

活性の制御に関わるサブユニットはHIF-1αであって、培養細胞を用いた検討から要約すると以下のような性質を持っている。

  1. 20%酸素下での培養状態では細胞内のHIF-1α蛋白質の発現量は非常に低く抑えられているが酸素分圧の低下に反応して5%以下の培養条件で急激に蛋白質の発現量が増加する。
  2. タンパク質の変化とは独立して転写因子としての活性(転写活性化能)が酸素分圧の低下に伴い上昇する。
  3. 活性化したHIF-1は細胞核に移行して発現制御域に結合し標的遺伝子の発現を促す。

HIF-1のこれらの性質を分子生物学的に理解することから低酸素感知機構の研究がスタートした。

Written by bodyhacker

5月 8th, 2009 at 8:34 pm

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