Nature Chemical Biologyに

TRPA1 underlies a sensing mechanism for O2

というタイトルの論文が発表されました。
京都大学からもプレスリリースがありました。(参照:新たな生体内酸素センサー機構の発見

pdf fileを高橋先生から送っていただいて一読しました。
興味深い内容ですので紹介します。

ヒトやその他のほ乳類の細胞内の酸素濃度は比較的に狭い範囲に保たれてホメオスターシスが成立しています。肺胞の分圧は110mmHg程度であり心臓、腎臓や脳での酸素分圧は部分的には20mmHg程度となっています。すべての細胞の生理学的な酸素濃度は酸素の供給と消費により決まり、酸素不足(低酸素状態)、酸素過剰(高酸素状態)などの逸脱が引き起こす生存に不利な状況を克服または適応し酸素ホメオスターシスを細胞レベルで保つための適応的な応答を引き起こします。このためには、細胞またはその集合体である組織,個体は自らのおかれた酸素濃度を何らかの形で感知する機構を備えているはずであるという論理的な要請があるわけです。

生体の低酸素応答は多分単一ではありません。その分子機序、時間的な違いなどからいくつかに分類できます。
呼吸応答に重要な役割を果たす動脈小体や低酸素性肺血管収縮など反応は、酸素分圧が60mmHgを下回る程度からきわめて迅速に通常は遺伝子応答なしに惹起されます。一方、転写因子の活性化が必要な低酸素性遺伝子応答は60mmHg程度の軽度低酸素状態で通常は惹起されないし、転写、翻訳などにある程度の時間がかかります。
このように生体の低酸素応答、低酸素センサーまたはそのエフェクターは明らかに単一ではなく多数存在する。またセンサー・エフェクターの対応は1:1の線形的なモデルでは記述できない複雑な網の目の(web)を形成していると考えるのが正しいとぼくは考えています。
今回の論文は,肺胞や動脈血に直接灌流されるような細胞がその範囲の周辺で変動する酸素分圧の変化をどう感知して生体応答につながっているのかを説明する有力な考え方の一つになると思います。

論文によれば10%程度の酸素分圧ですでにTRPA1には変化が生じるようです。PHDがHIFaの制御形式から考えるとこれはすこし高いという気もしますが,PHDのKmはそもそも結構高いので実は鋭敏な低酸素応答系ではこの程度から低酸素応答が実際にはじまるのだと考えることもできます。
HIF-1のプロリン残基とPHD2の反応では周辺配列の違いなどからすこし反応曲線というかKmがすこし異なるのかもしれません。ここらへんも実証できればこれまたすばらしいし今後もう少し詰めていかれるべき課題と考えています。

また高酸素状態で一過性に呼吸回数が増えるような現象がこのチャネルの性質で説明できれば従来の呼吸整理の教科書も一部は完全に書き換える必要がでてくるかもしれません。

HIF-1aのKO miceでは動脈小体の酸素分圧感知・呼吸制御に異常が起こることが知られていのですが,HIF-1からTRPA1への何からの影響もあるのかもしれません。

またTRPA1のシステイン残基が酸化修飾を二段階に受けるとしてそれを還元する系はどの還元酵素系に担われているのかなど興味は尽きません。

その他いろいろな事が思い浮かぶのですがこれ以上書くとぼくらのする仕事と関係が出てくるのでこれくらいで。

論文自体やプレスリリースは正確に記載されていますが,今回の論文の文脈ではTRPA1は酸素分圧センサーではありません。そのエフェクターの一つです。

イオンチャネルタンパク質TRPA1が「O2センサー」としてこの両義性に対応するために機能することを突き止めた。

という記述が京都大学のプレスリリースにありました。
その文脈で,低酸素センサーはPHDとしてももう一方のセンサーはどう考えるべきなのでしょうか? 活性酸素による緊張性な酸化修飾に対抗する還元系が支配的に働くのかやはり産生系が制御的に働くのか興味が引かれます。

先日の島岡セミナー関連です。
講演の中盤で,臨床医時代にふれあった外科医師,大学院生時代に師事した教授らとのふれあう過程でかけてもらった「言葉」や「薦め」を自分なりに咀嚼して”恐れながら一歩踏み出すということの重要を語っておられました。
人間誰しも跳ぶのは怖いのですが,「見るまえに跳べ」
ということもあります。
上司や師匠はすごくよく人を見ています。毎日朝から晩まで一緒にいて一挙手一投足を観察しているのですから当然です。
なので,上司,師匠のアドバスイというのには重みがあります。研究に向いていない人に研究しろとは云わないし,外国では無理かもと思う人には外国に行ってはどうかなどと云わないものです。
まして無謀なジャンプを強要することもありません。
上司をたまたまの上司と思うだけでは物事は動きません。究極の師匠では無いかもしれませんが上司も一次的には師匠です。

このエントリーをはてなブックマークに追加

Tagged with:  

島岡要先生の京大でのキャリアアップセミナー終了しました。

300人くらいの聴衆に集まってもらいぼくは満足です。
観戦記とか講演の様子などは追々公表していくつもりです。

R0010762

R0010760

このエントリーをはてなブックマークに追加

Tagged with:  

昨日の当直は応えました。
朝からだらだら緊急手術が5つくらい入り3時過ぎに終わって横になると一時間ほどでPHSで起こされそのまま8時45分まで帝王切開でした
こんな感じの帝王切開は,看護師,産科医,同僚麻酔科医との連携する力,技術力を含めた麻酔力が試される場の一つですね。いまだにすごく緊張します。
明け方でここで当直をしている先生方を起こすと翌日の麻酔に差し支えると思ったのですが,この未明の時間にぼくが粗相でもしたらと重いS原先生にも手伝っていただきました。今朝はぼくが挿管しました。
救急隊が手術室まで患者さんを運んでの帝王切開はそうそう経験しません。切り抜けて患者さんを送り出して,午前中はふぬけみたいになっていました。

R0012958


Oxygen Sensing, Homeostasis, and Disease


Gregg L. Semenza博士による総説です。cDNA cloningから16年でNEJMの総説です。結構感慨深いです。
疾患・病態を分類して酸素代謝から説明して記述していくプロジェクトを計画しています。一年くらいで何とか完成させたいと思います。

R0012954

さて島岡先生のセミナーが近づいています。ふるってご参加ください !!

今週の金曜日です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
京都大学医学研究科大学院共通教育コース
『キャリアアップセミナー』
 日時:平成23年8月26日 金曜日 17:00-18:00
 場所:医学部基礎講堂1
 講師:島岡 要
   三重大学大学院医学系研究科・分子病態学講座 教授
講演タイトル:「医師・研究者のキャリアについて語ろう」

  島岡先生は大阪大学病院,大阪府立成人病センターで10年余り麻酔科医として勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘されました。 2011年に帰国。 臨床麻酔のできる”基礎医学研究者”を自称されています。 専門は免疫学・細胞接着。 また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)があります。雑誌「実験医学」の連載をまとめた「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」などは若手研究者の間でのmust-readの文献となっております。先生の講演はキャリアプランニング,研究へのモチベーションなどの観点から大学院生を中心とした若手研究者に多くの示唆を与えてくれるはずです。

 皆様 奮ってご参加下さい。

 世話人:侵襲反応制御医学講座・麻酔科学分野 広田喜一 
    皮膚生命科学教室 椛島健治
主催:大学院教育コース 
 ——————————————————————————

不可能性の時代読み返しました。

不可能性の時代 (岩波新書)

このエントリーをはてなブックマークに追加

Tagged with:  
madeonamac.gif Creative Commons License